Tue, Nov 24

23:57 私には記憶がある。この世界を生き抜くために必要な算盤を弾くための指、必要な時に必要なだけ相手を殴るための拳、ぬくもりが欲しい時に女を抱くための腕、全て彼が残した記憶だ。型どおりの鎮魂も祈りも必要ない。これからの私に必要なものは、すべ…

Mon, Nov 23

21:50 降誕祭を祝う電飾が街にあふれ始めると、人々が落とす悲しみの残滓も無視できなくなってくる。我々も通常の倍の人員を投じて、人々が誤って踏んだりしないようこれを拾い集めて処分する。たまに見つかる喜びの残滓は、落とした人の不幸に思いを馳せつ…

Sat, Nov 21

20:00 それは誰かが列車の時刻を読み違えたことから始まった。その場で捕捉できなかった誤読は列車を乗り継いで各駅に広がり、もう虫取り網では追いつかない。恋文を誤読した男はビルから飛び降り、薬の説明書を誤読した婆がマントヒヒに求婚する。世界は徐…

Fri, Nov 20

22:32 「正弦波がやってきます。耳と心を開きなさい」シスターが告げる。百余年の空白を経て、この土地に正弦波がやってくる。少女たちの話し声はやがて細くなり、世界中がたったひとつの純粋な波=音に飲み込まれてゆく。私は身を固くして、体内に純音が満…

Thu, Nov 19

23:29 君にこれから届ける想いは、長さにして五分くらい。もっと長く綴ることはできるけど、まだ彼は小さいので、この五分を運ぶだけで精一杯だ。部屋を締め切り、籠を開けて彼を放つ。少し落ち着いたところで、羽の裏にあるジャックにプラグを差し込む。準…

Wed, Nov 18

23:07 若い雌の驢馬の耳を切り取って土に埋め、22℃から24℃に保ったハウスの中で半年間。その後土から掘り出すと王様ができます。勘違いしないように。驢馬の耳から王様が生まれるのです。掘り出した穴には雌驢馬を埋めます。そうするとまた耳が生えてきます…

Tue, Nov 17

22:04 私も彼も大人になりました。もちろん今でも叩けば増えるでしょう。しかしもうビスケットを入れることはないし、彼もそれを期待してはいません。あれはただの幼い頃の戯れだったのです。今日も私は小銭をポケットに入れます。数枚は減ることを知りなが…

Mon, Nov 16

21:38 @hamari 生き延びたヒヨコはいなかった。そう告げるために鶏は来た。家の前に立ち、呼び鈴を押そうとした時、鞄を手に出てくる男を見た。百日振りだった。鶏はその後姿を見送り、小声でつぶやきながらその場を去った。「生き延びたヒヨコはいなかった…

Sun, Nov 15

12:54 全て演技なのである。彼らは我々を踏み潰さないように暴れるし、建物を崩しても元に戻してくれる。身の危険などない。だが、彼らが現れれば約束通りに逃げ惑うし、精一杯恐ろしげな表情を作る。お互いに昔から教育されてきた、それが彼らと我々の生き…

Sat, Nov 14

16:42 彼はずっと歩き続けた。起伏の激しい、岩だらけの場所を歩き続けた。その隣には、とても平坦で楽に歩ける道があることも知っていた。彼はそちらを選ばなかった。自分が賢くも正しくもないことを彼は知っていた。だが、どちらの道もやがて同じ場所に行…

Fri, Nov 13

19:00 出かけたので姉の机の抽斗を覗いてみる。疣を取ったキュウリや土を丁寧に落とした牛蒡や皮を剥いた山芋が入っているのはわかっていたが、彼氏の写真とかプリクラ帳などというものが入っているとは! いつもの姉に戻ってくれるよう、水を張った如雨露を…

Wed, Nov 11

21:40 かつて友と遊んだ小川は枯れ果て、驅け囘つた草原はこげ茶色の土と化す。男は丘に登り、變はり果てた村を見下ろす、それだけは未だ變はらぬ櫻の木にもたれかゝる。―お前がこれを望んだのではないか― 櫻が語りかける。さうだ、私は間違つてはおらぬ。男…

Tue, Nov 10

21:10 禿頭をこすってジンを出す。望みは何か。禿を治せ。うむむそれでは帰る場所がなくなるのだが。と言いつつジンは隣で寝ている男の髪の毛をがしとむしっては私の頭に植え付ける。では、とジンは生まれたばかりの禿頭に消える。すべりが悪そうなので、私…

Mon, Nov 09

20:50 たとへば、文中にポプラ竝木と書いた時、それは本當にポプラでよいのか、銀杏ではどうか、と吟味したことが滲み出てゐるやうな、そんな文章を讀みたいと切に願つてゐるのです。 大形燐太?『まだ見ぬ新しい小説家たちへ』 about 4 hours ago from #twno…

Sun, Nov 08

20:30 あの時臺所で指を切らなければ、その指を私が舐めなければ、貴女はこのやうな目に遭はずに濟んだのかもしれません。今、兩の指はきれいに切り揃へられ、滴り落ちる血を十個のワイングラスが受け止めてゐる。後悔はないはずです。あの時「舐めて」と言…

Sat, Nov 07

20:55 白い紙の上に鉛筆で一本直線を引く。その端にダンゴムシを放すと線に沿ってまっすぐ歩き始める。ここまでで一年。その途中に△印を書き込むと止まり、Gと書くと再び歩き出す。これでさらに三年。加えて×と書くと自死するよう躾けてあるものの、まだこ…

Fri, Nov 06

19:00 彼らが生殖能力を有するようになるのは人でいうと初老を過ぎてから。それから死ぬまでに一度だけ子孫を残す機会が与えられる。その一度で子を得られた幸運な夫婦には、共同体から子に持たせるための包丁一揃いが贈られる。親はその体を子に与えるため…

Thu, Nov 05

20:00 このディスクにはあなたが生まれてから今までの記憶が入力されています。これをここに挿入すれば、この物体は今後あなたとなってその生涯を全うします。しかし状況によっては記憶の繋ぎ目を補完する必要が生じます。あなたの仕事はその補完です。これ…

Wed, Nov 04

22:00 私は受話器を置き、文字を書き付けた紙片を傍らの翻訳家に手渡す。翻訳家はそれを飲み込み、然るべき形に翻訳して私のほうへ差し出す。私はそれを見てひとつ頷き、翻訳家の首輪を外す。仕事を終えた満足感と戸惑いの混じる目の色で私を一瞥すると、最…

Tue, Nov 03

22:30 サイレンが鳴り響き、街ゆく人がみな私を注視する。私はぐるりと周りを見渡し、ひとつ大きく深呼吸をして、詩の朗読を始める。人々の不安げな表情と、高らかに響く声の不均衡を楽しみつつ、朗読も半ばを過ぎた頃、一人の男が突然激しく笑い始める。さ…

Sun, Nov 01

22:00 目の前に積まれている原稿用紙の升目が埋められることはもうない。私の頭の中ですでに完成しているこの作品は、もはや人の目に触れることはなく、数え切れないほどの升目と床に転がるいくつもの酒瓶に、私はもうすぐ殺される。微かに喇叭の音が聞こえ…

Sat, Oct 31

19:00 その山羊は一時間に一回めぇと鳴くので村人は時報代わりに使う。山羊が眠っている間は人々も眠る。目を覚ましてめぇと鳴くまで村の一日は始まらない。昼だろうと夜だろうと鳴き声を聞くまで寝ているし、声が聞こえなくなるまで起きている。めぇめぇと…

Fri, Oct 30

21:09 臍のゴマと耳垢と目ヤニと鼻糞と爪垢は互いに反目しあっていた。黒いからどうだ黄色いからどうだとその色や容貌を罵りあっていた、しかし彼らの増殖とともに宿主は徐々に弱り始め、絶滅の可能性もあるため、宿主保存の策を練るべく、今ようやく会議の…

Thu, Oct 29

20:00 彼の放った矢が、2.44m先の的めがけて落ちてゆく。初速5m/sで描かれる緩やかな放物線。私が今、どのように祈ろうともこの放物線は狂うはずもなく、彼が満足げにビールを飲むしぐさまで、すでに誰かに決められていたかのようだ。私が今夜、彼の腕で眠り…

Wed, Oct 28

21:00 龍はその死を目前に、一人の男に命じ少女の背に自分の姿を彫らせた。見た者はみなそれを欲し、男は不眠不休で彫り続けた。やがてその国の民は全て背に龍を持つに至り、持たないのは男一人となった。男は絶命寸前の龍の前で跪き、その鱗に自分の姿を彫…

Tue, Oct 27

20:53 あなたの鼻の穴を綿球で塞ぐ。耳の穴を綿棒で塞ぐ。肛門は麺棒で塞ぐ。尿道は爪楊枝で塞ぐ。涙腺はマチ針で塞ぐ。そして最後にその口をあたしの唇で塞ぐ。あたしの吐息が漏れないように、あなたの中から外へ通じる穴という穴を塞ぐ。毛穴も汗腺も塞ぎ…

Mon, Oct 26

23:29 君はぼくのブロックノイズの中にいて、ぼくは君のブロックノイズの中にいる。ノイズから不要なものが取り除かれ君の姿を作り出す。こうしてぼくは一日に一度、君に逢える。周りを取り囲む無数のワームたちが、不要なノイズを食い尽くし、時間がきたら…

Sun, Oct 25

23:00 ゴミ出しのときにいつも会う奥さんの代わりにご主人が見えたのでどうかしたのかと尋ねると、ええちょっと体調が、という。それはお大事にと返す代わりに、透けないビニル袋持って来ましょうかと言うと、ご主人にへらと薄笑い。手に提げたビニル袋に透…