Tue, Jan 11

22:53 醜悪な体つきで醜悪な臭いを放つ醜悪な男は醜悪な目で私の瞳孔を覗き醜悪な指で脈を探り醜悪な耳で鼓動を聞き醜悪な声で私の名を叫び醜悪な腕で私の後頭部を抱きかかえ醜悪なその唇で今まさに私に人工呼吸している。その様子を眺める私の醜悪な心は次…

Wed, Nov 24

16:56 「百に千切りし外れ籤、その一片を額に、別の一片を舌に貼りて町に出でて、同じ風体の者と出会ひし時は皮袋に入れし残りの紙片より一片ずつを交換すべし。この行十日続けし後再度籤を求めよとの神託あり」などとがなりたてし婆の法螺も値のうちとその…

Tue, Oct 05

22:45 風が砂埃を立てる音が、欲望を顕にした男たちの足音が、一人でも多くの男を誘い込もうとする女郎たちの声が、それらに重なるように軋む格子と衣擦れの音が、一刻も止むことなく聞こえてくる。貴女の眼が命の灯火を取り戻したほんの数秒ほど、時間とい…

Sun, Aug 08

12:13 人が蜆を掘りに行く。蜆もまた人を掘りに行く。水面を境に、両者熊手を構えて対峙したままじっと動かないのはこの時期よく見かける眺めである。日暮れには、天から巨大な熊手が現れ、人も蜆もひと掻きに掻っ攫って行くのもまたしかり。後には必ず夕立…

Sat, Jun 19

20:03 激しい衝動に貫かれて、私たちは一斉に狭い穴を潜り抜ける。ぬるっとした液体の中を懸命に、たったひとつの場所を目指して泳ぎ続ける。互いの目的はひとつ。宿主の唯一無二の的を射止めること。これが最初で最後の、あらかじめ定められた、私たちの襲…

Fri, Jun 18

23:14 左手の小指の第二関節をタコ糸で縛る。数分後、青紫に変色した小指を、反対の人差し指で二度弾く。頃合いと判断したのか、彼はテーブルの上に小指を乗せ、右手に持った短刀をそっと当てる。ゆっくりと深く息を吸う。鑿はなかったのか。そう思った時に…

Thu, Apr 01

23:14 どうしてみんな嘘を嫌うの? この世に嘘がなかったら、きっとぼくは生まれていなかったし、君とも出逢うことがなかったのに。 #twnovel Powered by twtr2src

Fri, Mar 19

21:01 ただ、腕を切り落としたり舌を引きちぎったりするだけでグロテスクとは言わない。ほら、今切り落としたばかりの私の左腕をごらん。これのどこがグロテスクなのだろう。真にグロテスクというのは……そう、今、貴女がその左腕に頬ずりをしているような、…

Thu, Feb 11

22:32 文字が散亂してゐる。夕べ讀みかけたまゝの本から逃げ出したのだ。誤つて踏まぬやうベッドを降り、いくつか拾ひ上げると偏も作りも濁點もばらばらで死んでゐる。まだ息のある文字は自分の居所を探してのそのそ這ひ囘つてゐる。私は死んだ文字を集めて…

Sun, Jan 31

22:57 爆発とは、あるウィルスが特定の環境下で瞬間的に無数に増殖する現象を指す。特定の環境とは具体的には体内を意味し、人がそのウィルスに感染すると、それに気づかぬほど瞬時にぽんと破裂してしまう。今やウィルスへの感染〜破裂は日常的となり、ラッ…

Thu, Jan 21

23:25 貴女の舌が私の首筋から胸へ、さらにその先へと這ってゆくとともに、私の血液はその循環速度を速め、血管の皮膜の薄い部分に猛烈な圧力を加え始める。やがて圧力に耐えきれなくなった血管は破れ、舌の快楽に溺れていた私の脳は、薄れゆく意識の中でよ…

Wed, Jan 13

20:36 上框に腰を降ろし肩に乗った雪を払う。台所から水飴の壺を取り暖炉の前に座る。傍の端末の電源を入れ、今日拾ったコトバを放り込んでは検索を繰り返す。冬の終わりを見つけるために。眠り続ける連れ合いを起こすために。しかしそれは見つからないまま…

Thu, Dec 31

23:55 屏風の虎は十二年に一度、それも最初の三分間だけ外に出ることが許されます。世界に挨拶をする三分間です。後ろでは、一休さんがいつでも出られるよう縄を持ってスタンバってます。さて、そろそろあなたにも聞こえてくるはずですよ。「おめでとうおめ…

Sun, Dec 27

23:29 痛みがやがて快楽をもたらすように、痒みはやがて郷愁をもたらす。今、私の脳を侵すのは右腕の痒み。眼前にはあの夏の風景。かつて恋した少女がゆっくり手招きする。堪えきれず右腕を掻くと少女は消え、赤い掻跡だけを残す。薄く血の滲む腕を二三度さ…

Thu, Dec 24

19:30 七面鳥は何か悟った眼をして自ら羽を毟り取り、塩胡椒香草を肌に擦り付け、尻から腸を引きずり出し、代わりに用意しておいた詰め物を詰めて、ゆったりとした足取りでオーブンに入っていったよ。盛り付けは無理だから私がやってあげたがね。さあいただ…

Wed, Dec 23

10:04 その土地では雨のかわりに槍が降る。槍には植物が育つのに必要な養分がたっぷり閉じ込められていて、畑を肥やし、また人をも肥やす。時々運の悪いことに、槍に刺さって死ぬ者もいるが、その屍骸もまた畑の肥やしとなる。その土地はいつも死臭に満ちて…

Sun, Dec 20

00:03 この柔らかい肌はあたしのやさしさと引き換えに。流れるような髪はあたしの良心と引き換えに。すらりと伸びた足はあたしの将来と引き換えに。なけなしの心を切り売りして、あたしは容れ物だけの女になる。中身が異形だと知られることは絶対ない。男は…

Sat, Dec 19

21:25 男女の一時の過ちで産み落とされ、山奥に捨てられたカルハズミは、たまたま通りがかった男に拾われ育てられる。成長して自らの生い立ちを知らされた彼は、同じ境遇で育った仲間を探す旅に出る。彼の行く先々で、様々な軽はずみが起こるが、それが復讐…

Thu, Dec 17

22:50 亡き父の書斎から出てきたこのメモには幸せの掴み方が記されています。これでとびきりの幸せを貴女に……それは私の幸せでもあるのです。さあ、メモの通りに淹れたこのお茶を。そそり立つ茶柱が貴女を誘う。物語はここから始まるのです。今なら私としわ…

Mon, Dec 14

17:50 「愛情ってどんな味がするの? 食べられないの?」と攫ってきた少女が尋ねる。「これがそうさ」私は鞄の中からくしゃくしゃになったビスケットを差し出す。滓をこぼしながら美味しそうに食べる少女の犬歯はみるみる伸びて、私は首筋を少女に向ける。「…

Sat, Dec 12

22:17 散髮屋の仕事をご存知だらうか。散髮だけが仕事ではない。犬の散?ビルヂングの?掃靈柩車の運轉から賣春の斡旋夜逃げの段取り武器の調達と、善惡の區別なく乞はれるまゝ何でも請け負ふ、それが散髮屋である。たゞ初めて請け負つたのが散髮であつたから…

Tue, Dec 08

21:35 「キリスト教は消えてなくなるよ」とあなたは言った。だけど未だにキリスト教は隆盛を誇っているし、ロックンロールはなくならない。あなたの歌も。あなたのことを知ってる人も知らない人も、あなたの歌をこれからもずっと歌い続ける。だけどあなただ…

Fri, Dec 04

20:00 彼らがキスによってやり取りするのは愛情ではない。彼らにとって舌は、我々の目耳鼻に相当し、また記憶を蓄積する場所でもある。あらゆるものを舐め、情報を蓄積し、唾液の交換によってそれをやり取りする。時折、平手打ちの応酬を見かけるが、あれは…

Thu, Dec 03

10:34 通常見間違えは体内に入って早くて数秒、長くても数分で消失するため、人はそれが見間違えであったことに気付く。これはいわゆる空目の原因でもある。しかし世の中には、見間違えたままにしておきたい事柄も多く、以前からその感染期間を長引かせるワ…

Wed, Dec 02

21:00 鼓動を上乗せする。それは人の寿命を確実に延ばす唯一の手段だ。三十億回という鼓動の上限まで生きられる人は少なく、それゆえ死人から余った鼓動を奪い取り、売買する組織さえ存在する。死ぬ間際のあなたを囲む人々の中にも売人が潜んでいるかもしれ…

Mon, Nov 30

00:03 洗い立てのシャツに拒否されたので、十日ぶりに身体を洗うことにする。目口鼻耳をガムテープで塞ぎ、足から順にはずしてゆく。胴と胸も二分して、全部洗濯機に放り込む。残しておいた右腕には隣家の呼び鈴を押しにやらせる。右腕を放り込んで洗濯機の…

Sun, Nov 29

22:30 貴女の落とした涙は地に吸い込まれ、水蒸気となって天に昇って散り、やがて雲から雨に変わって再び落ちてくる。そしていつか、それは砂漠を歩む誰かの喉を潤すことになるでしょう。意味のないことなど何もありません。だから今は、心の奥から泣き叫ん…

Sat, Nov 28

22:58 お前の中の小説家を殺せ。お前の中の読者を殺せ。グラスを一気に呷れ。お前の中の小説家を起こせ。お前の中の読者を起こせ。頬を叩いて起こせ。耳を澄ませよ。目を凝らせよ。お前の欲する言葉はいつもお前の中にしかない。五感を働かせ探り当てろ。こ…

Fri, Nov 27

23:36 不意に目が合つて胸が高鳴り、その手に觸れてみたいと思ひ、いつも隣にゐる女性のことが氣にかゝる。戀とはつまりかういふことで、ともに人生を歩みたいと思ひ、自分の氣持ちに疑問を抱き、何度も問ひ直しては否定し、いつしか顏すら見たくなくなる。…

Wed, Nov 25

21:27 何事にも理由はある。この理不尽な交通規制も。特定のルート以外は締め出され、灯火を制限されるこの状況も。ルート上の車だけが灯火をつけたままにするよう命じられる状況も。今、雷鳴とともに彼らが降りてくる。これはサインだ。我々は理由を知る。…