2009-01-01から1年間の記事一覧

Thu, Dec 31

23:55 屏風の虎は十二年に一度、それも最初の三分間だけ外に出ることが許されます。世界に挨拶をする三分間です。後ろでは、一休さんがいつでも出られるよう縄を持ってスタンバってます。さて、そろそろあなたにも聞こえてくるはずですよ。「おめでとうおめ…

Sun, Dec 27

23:29 痛みがやがて快楽をもたらすように、痒みはやがて郷愁をもたらす。今、私の脳を侵すのは右腕の痒み。眼前にはあの夏の風景。かつて恋した少女がゆっくり手招きする。堪えきれず右腕を掻くと少女は消え、赤い掻跡だけを残す。薄く血の滲む腕を二三度さ…

Thu, Dec 24

19:30 七面鳥は何か悟った眼をして自ら羽を毟り取り、塩胡椒香草を肌に擦り付け、尻から腸を引きずり出し、代わりに用意しておいた詰め物を詰めて、ゆったりとした足取りでオーブンに入っていったよ。盛り付けは無理だから私がやってあげたがね。さあいただ…

Wed, Dec 23

10:04 その土地では雨のかわりに槍が降る。槍には植物が育つのに必要な養分がたっぷり閉じ込められていて、畑を肥やし、また人をも肥やす。時々運の悪いことに、槍に刺さって死ぬ者もいるが、その屍骸もまた畑の肥やしとなる。その土地はいつも死臭に満ちて…

Sun, Dec 20

00:03 この柔らかい肌はあたしのやさしさと引き換えに。流れるような髪はあたしの良心と引き換えに。すらりと伸びた足はあたしの将来と引き換えに。なけなしの心を切り売りして、あたしは容れ物だけの女になる。中身が異形だと知られることは絶対ない。男は…

Sat, Dec 19

21:25 男女の一時の過ちで産み落とされ、山奥に捨てられたカルハズミは、たまたま通りがかった男に拾われ育てられる。成長して自らの生い立ちを知らされた彼は、同じ境遇で育った仲間を探す旅に出る。彼の行く先々で、様々な軽はずみが起こるが、それが復讐…

Thu, Dec 17

22:50 亡き父の書斎から出てきたこのメモには幸せの掴み方が記されています。これでとびきりの幸せを貴女に……それは私の幸せでもあるのです。さあ、メモの通りに淹れたこのお茶を。そそり立つ茶柱が貴女を誘う。物語はここから始まるのです。今なら私としわ…

Mon, Dec 14

17:50 「愛情ってどんな味がするの? 食べられないの?」と攫ってきた少女が尋ねる。「これがそうさ」私は鞄の中からくしゃくしゃになったビスケットを差し出す。滓をこぼしながら美味しそうに食べる少女の犬歯はみるみる伸びて、私は首筋を少女に向ける。「…

Sat, Dec 12

22:17 散髮屋の仕事をご存知だらうか。散髮だけが仕事ではない。犬の散?ビルヂングの?掃靈柩車の運轉から賣春の斡旋夜逃げの段取り武器の調達と、善惡の區別なく乞はれるまゝ何でも請け負ふ、それが散髮屋である。たゞ初めて請け負つたのが散髮であつたから…

Tue, Dec 08

21:35 「キリスト教は消えてなくなるよ」とあなたは言った。だけど未だにキリスト教は隆盛を誇っているし、ロックンロールはなくならない。あなたの歌も。あなたのことを知ってる人も知らない人も、あなたの歌をこれからもずっと歌い続ける。だけどあなただ…

Fri, Dec 04

20:00 彼らがキスによってやり取りするのは愛情ではない。彼らにとって舌は、我々の目耳鼻に相当し、また記憶を蓄積する場所でもある。あらゆるものを舐め、情報を蓄積し、唾液の交換によってそれをやり取りする。時折、平手打ちの応酬を見かけるが、あれは…

Thu, Dec 03

10:34 通常見間違えは体内に入って早くて数秒、長くても数分で消失するため、人はそれが見間違えであったことに気付く。これはいわゆる空目の原因でもある。しかし世の中には、見間違えたままにしておきたい事柄も多く、以前からその感染期間を長引かせるワ…

Wed, Dec 02

21:00 鼓動を上乗せする。それは人の寿命を確実に延ばす唯一の手段だ。三十億回という鼓動の上限まで生きられる人は少なく、それゆえ死人から余った鼓動を奪い取り、売買する組織さえ存在する。死ぬ間際のあなたを囲む人々の中にも売人が潜んでいるかもしれ…

Mon, Nov 30

00:03 洗い立てのシャツに拒否されたので、十日ぶりに身体を洗うことにする。目口鼻耳をガムテープで塞ぎ、足から順にはずしてゆく。胴と胸も二分して、全部洗濯機に放り込む。残しておいた右腕には隣家の呼び鈴を押しにやらせる。右腕を放り込んで洗濯機の…

Sun, Nov 29

22:30 貴女の落とした涙は地に吸い込まれ、水蒸気となって天に昇って散り、やがて雲から雨に変わって再び落ちてくる。そしていつか、それは砂漠を歩む誰かの喉を潤すことになるでしょう。意味のないことなど何もありません。だから今は、心の奥から泣き叫ん…

Sat, Nov 28

22:58 お前の中の小説家を殺せ。お前の中の読者を殺せ。グラスを一気に呷れ。お前の中の小説家を起こせ。お前の中の読者を起こせ。頬を叩いて起こせ。耳を澄ませよ。目を凝らせよ。お前の欲する言葉はいつもお前の中にしかない。五感を働かせ探り当てろ。こ…

Fri, Nov 27

23:36 不意に目が合つて胸が高鳴り、その手に觸れてみたいと思ひ、いつも隣にゐる女性のことが氣にかゝる。戀とはつまりかういふことで、ともに人生を歩みたいと思ひ、自分の氣持ちに疑問を抱き、何度も問ひ直しては否定し、いつしか顏すら見たくなくなる。…

Wed, Nov 25

21:27 何事にも理由はある。この理不尽な交通規制も。特定のルート以外は締め出され、灯火を制限されるこの状況も。ルート上の車だけが灯火をつけたままにするよう命じられる状況も。今、雷鳴とともに彼らが降りてくる。これはサインだ。我々は理由を知る。…

Tue, Nov 24

23:57 私には記憶がある。この世界を生き抜くために必要な算盤を弾くための指、必要な時に必要なだけ相手を殴るための拳、ぬくもりが欲しい時に女を抱くための腕、全て彼が残した記憶だ。型どおりの鎮魂も祈りも必要ない。これからの私に必要なものは、すべ…

Mon, Nov 23

21:50 降誕祭を祝う電飾が街にあふれ始めると、人々が落とす悲しみの残滓も無視できなくなってくる。我々も通常の倍の人員を投じて、人々が誤って踏んだりしないようこれを拾い集めて処分する。たまに見つかる喜びの残滓は、落とした人の不幸に思いを馳せつ…

Sat, Nov 21

20:00 それは誰かが列車の時刻を読み違えたことから始まった。その場で捕捉できなかった誤読は列車を乗り継いで各駅に広がり、もう虫取り網では追いつかない。恋文を誤読した男はビルから飛び降り、薬の説明書を誤読した婆がマントヒヒに求婚する。世界は徐…

Fri, Nov 20

22:32 「正弦波がやってきます。耳と心を開きなさい」シスターが告げる。百余年の空白を経て、この土地に正弦波がやってくる。少女たちの話し声はやがて細くなり、世界中がたったひとつの純粋な波=音に飲み込まれてゆく。私は身を固くして、体内に純音が満…

Thu, Nov 19

23:29 君にこれから届ける想いは、長さにして五分くらい。もっと長く綴ることはできるけど、まだ彼は小さいので、この五分を運ぶだけで精一杯だ。部屋を締め切り、籠を開けて彼を放つ。少し落ち着いたところで、羽の裏にあるジャックにプラグを差し込む。準…

Wed, Nov 18

23:07 若い雌の驢馬の耳を切り取って土に埋め、22℃から24℃に保ったハウスの中で半年間。その後土から掘り出すと王様ができます。勘違いしないように。驢馬の耳から王様が生まれるのです。掘り出した穴には雌驢馬を埋めます。そうするとまた耳が生えてきます…

Tue, Nov 17

22:04 私も彼も大人になりました。もちろん今でも叩けば増えるでしょう。しかしもうビスケットを入れることはないし、彼もそれを期待してはいません。あれはただの幼い頃の戯れだったのです。今日も私は小銭をポケットに入れます。数枚は減ることを知りなが…

Mon, Nov 16

21:38 @hamari 生き延びたヒヨコはいなかった。そう告げるために鶏は来た。家の前に立ち、呼び鈴を押そうとした時、鞄を手に出てくる男を見た。百日振りだった。鶏はその後姿を見送り、小声でつぶやきながらその場を去った。「生き延びたヒヨコはいなかった…

Sun, Nov 15

12:54 全て演技なのである。彼らは我々を踏み潰さないように暴れるし、建物を崩しても元に戻してくれる。身の危険などない。だが、彼らが現れれば約束通りに逃げ惑うし、精一杯恐ろしげな表情を作る。お互いに昔から教育されてきた、それが彼らと我々の生き…

Sat, Nov 14

16:42 彼はずっと歩き続けた。起伏の激しい、岩だらけの場所を歩き続けた。その隣には、とても平坦で楽に歩ける道があることも知っていた。彼はそちらを選ばなかった。自分が賢くも正しくもないことを彼は知っていた。だが、どちらの道もやがて同じ場所に行…

Fri, Nov 13

19:00 出かけたので姉の机の抽斗を覗いてみる。疣を取ったキュウリや土を丁寧に落とした牛蒡や皮を剥いた山芋が入っているのはわかっていたが、彼氏の写真とかプリクラ帳などというものが入っているとは! いつもの姉に戻ってくれるよう、水を張った如雨露を…

Wed, Nov 11

21:40 かつて友と遊んだ小川は枯れ果て、驅け囘つた草原はこげ茶色の土と化す。男は丘に登り、變はり果てた村を見下ろす、それだけは未だ變はらぬ櫻の木にもたれかゝる。―お前がこれを望んだのではないか― 櫻が語りかける。さうだ、私は間違つてはおらぬ。男…