2010-01-01から1年間の記事一覧

Wed, Nov 24

16:56 「百に千切りし外れ籤、その一片を額に、別の一片を舌に貼りて町に出でて、同じ風体の者と出会ひし時は皮袋に入れし残りの紙片より一片ずつを交換すべし。この行十日続けし後再度籤を求めよとの神託あり」などとがなりたてし婆の法螺も値のうちとその…

Tue, Oct 05

22:45 風が砂埃を立てる音が、欲望を顕にした男たちの足音が、一人でも多くの男を誘い込もうとする女郎たちの声が、それらに重なるように軋む格子と衣擦れの音が、一刻も止むことなく聞こえてくる。貴女の眼が命の灯火を取り戻したほんの数秒ほど、時間とい…

Sun, Aug 08

12:13 人が蜆を掘りに行く。蜆もまた人を掘りに行く。水面を境に、両者熊手を構えて対峙したままじっと動かないのはこの時期よく見かける眺めである。日暮れには、天から巨大な熊手が現れ、人も蜆もひと掻きに掻っ攫って行くのもまたしかり。後には必ず夕立…

Sat, Jun 19

20:03 激しい衝動に貫かれて、私たちは一斉に狭い穴を潜り抜ける。ぬるっとした液体の中を懸命に、たったひとつの場所を目指して泳ぎ続ける。互いの目的はひとつ。宿主の唯一無二の的を射止めること。これが最初で最後の、あらかじめ定められた、私たちの襲…

Fri, Jun 18

23:14 左手の小指の第二関節をタコ糸で縛る。数分後、青紫に変色した小指を、反対の人差し指で二度弾く。頃合いと判断したのか、彼はテーブルの上に小指を乗せ、右手に持った短刀をそっと当てる。ゆっくりと深く息を吸う。鑿はなかったのか。そう思った時に…

Thu, Apr 01

23:14 どうしてみんな嘘を嫌うの? この世に嘘がなかったら、きっとぼくは生まれていなかったし、君とも出逢うことがなかったのに。 #twnovel Powered by twtr2src

Fri, Mar 19

21:01 ただ、腕を切り落としたり舌を引きちぎったりするだけでグロテスクとは言わない。ほら、今切り落としたばかりの私の左腕をごらん。これのどこがグロテスクなのだろう。真にグロテスクというのは……そう、今、貴女がその左腕に頬ずりをしているような、…

Thu, Feb 11

22:32 文字が散亂してゐる。夕べ讀みかけたまゝの本から逃げ出したのだ。誤つて踏まぬやうベッドを降り、いくつか拾ひ上げると偏も作りも濁點もばらばらで死んでゐる。まだ息のある文字は自分の居所を探してのそのそ這ひ囘つてゐる。私は死んだ文字を集めて…

Sun, Jan 31

22:57 爆発とは、あるウィルスが特定の環境下で瞬間的に無数に増殖する現象を指す。特定の環境とは具体的には体内を意味し、人がそのウィルスに感染すると、それに気づかぬほど瞬時にぽんと破裂してしまう。今やウィルスへの感染〜破裂は日常的となり、ラッ…

Thu, Jan 21

23:25 貴女の舌が私の首筋から胸へ、さらにその先へと這ってゆくとともに、私の血液はその循環速度を速め、血管の皮膜の薄い部分に猛烈な圧力を加え始める。やがて圧力に耐えきれなくなった血管は破れ、舌の快楽に溺れていた私の脳は、薄れゆく意識の中でよ…

Wed, Jan 13

20:36 上框に腰を降ろし肩に乗った雪を払う。台所から水飴の壺を取り暖炉の前に座る。傍の端末の電源を入れ、今日拾ったコトバを放り込んでは検索を繰り返す。冬の終わりを見つけるために。眠り続ける連れ合いを起こすために。しかしそれは見つからないまま…